本の人生 本との人生 末端古本屋雑記帳 masdart.exblog.jp

• 福島次郎氏他、２月の点鬼簿・終わりに
  [ 2006-02 -28 21:16 ]
• 福島次郎氏他、２月の点鬼簿・続き
  [ 2006-02 -27 23:07 ]
• 身辺雑記ですんまへん
  [ 2006-02 -26 23:13 ]
• 福島次郎氏他、２月の点鬼簿
  [ 2006-02 -25 23:21 ]
• サヨナラＣＯＬＯＲ 竹中直人監督
  [ 2006-02 -24 20:52 ]
• 書き込み本、線引き本・３
  [ 2006-02 -23 00:24 ]
• 書き込み本、線引き本・２
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• 書き込み本、線引き本・１
  [ 2006-02 -21 22:22 ]
• クトゥルフの呼び声　というゲーム本
  [ 2006-02 -20 23:02 ]
• １年目のブログに思う
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• ブログ始めて明日で丸１年
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• 続・ブログ始めて間もなく１年
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• ブログ始めて間もなく１年
  [ 2006-02 -16 22:56 ]
• もっと本が読まれるためには・結びとして
  [ 2006-02 -15 22:50 ]
• もっと本が読まれるためには・それぞれの思い出の本
  [ 2006-02 -14 17:35 ]
• もっと本が読まれるためには・江戸川乱歩全集
  [ 2006-02 -13 22:43 ]
• もっと本が読まれるためには・南　洋一郎訳「怪盗ルパン全集」
  [ 2006-02 -12 23:05 ]
• もっと本が読まれるためには・続続
  [ 2006-02 -11 22:54 ]
• もっと本が読まれるためには・続
  [ 2006-02 -10 22:43 ]
• もっと本が読まれるためには
  [ 2006-02 -09 22:46 ]
• まずは読書、それから始まる
  [ 2006-02 -08 21:07 ]
• 商売と政治的発言に関して
  [ 2006-02 -07 23:29 ]
• アマゾンでの０円本、出現に思う
  [ 2006-02 -06 21:08 ]
• 売った本を記録しておこうと考えた
  [ 2006-02 -05 22:57 ]
• ホリエモン事件再考・まとめとして
  [ 2006-02 -04 00:02 ]
• ホリエモン事件再考・後
  [ 2006-02 -03 18:38 ]
• ホリエモン事件再考・中
  [ 2006-02 -02 18:29 ]
• ホリエモン事件再考・前
  [ 2006-02 -01 22:42 ]

ホモセクシャルであること
　福島次郎氏を悼む。
　死してますます年月とともに文名が高まる一方の三島由紀夫。戦後の昭和文学界に君臨する帝王の面影さえ今ではあるが、その彼が実生活において、同性愛者であったことは周知の事実である。
　ところが彼の「文学」を高く評価するあまりに、実は彼はホモセクシャルではなかった、という異論さえもあるのだという。じじつ、彼は妻帯し子供までいるのだから、『仮面の告白』的同性愛描写は、天才である彼の想像力によって構成された虚構の一端に過ぎないと言いたいのだろう。しかし、ホモとは、そんな恥ずべき厭うべきもので、彼の栄光を汚す嗜好なのだろうか。増坊はそうは考えない。三島の美的感覚及び天才的感受性はまさしくホモセクシャル者ゆえ持ち得た特異なもので、デビュー作から衝撃の割腹自殺に至るまで彼の人生はすべて、ホモセクシャルという一本の道の上でつながっている。
　福島次郎氏は、青年時代より、まだ若き日の三島と親交を結び、同好の者同士、今で言う「ボーイズラブ」の関係があった人で、三島も誰よりも心許し、飾らずに折々心情を吐露していた仲だった。今回の本は、近年、その“福島青年”が文学の師でもあった三島との思い出を嘘偽りなく書き記した、敬愛と悔恨の話題の評伝で、プライバシーの問題もあったのだろう、遺族から訴えられ、裁判の結果、残念なことにこの本は発禁となってしまった。しかし、三島由紀夫という特異な世界的天才を研究するに、本書はその同性愛者としての素顔が隠すことなく記されているだけに極めて貴重な第一義の資料である。
　福島氏の描いている三島の素顔は、小難しい世界的文学者でもなく、生真面目な憂国の士でもなく、明るく元気で思いやりのあるカラッとした克己の好青年である。その立派な好青年が、何故あの悲劇的自殺を遂げねばならなかったのか、福島氏はその謎を自問しつつこの本を愛する者に捧げるため書き上げた。この本でますます三島という作家に興味を持ち好きになったと増坊は告白しよう。
　
★このブログに本を載せると、すぐに問い合わせや注文が来て、結局いつも売ってしまうのだけれど、今回のこの本はマスダの私物ですので、売り物ではありません。

川田順の　老いらくの恋　とは
　増坊は当然生まれていない頃の事件なのだが、戦後の世相史を紐解くと、昭和２３年、１９４８年の流行語に「老いらくの恋」というのがあり、目を惹く。以降、現在はどうかわからないが、老人の恋愛を指して、慣用句のように「老いらくの恋」と呼ぶようになった。今回はその話。
　手元に詳しい資料が今みつからないので、事の詳細についてはふれられないが、戦後まだ間もない頃、戦時中は“愛国歌人”として世に知られ、第一回の芸術院賞も受賞した高名な歌人・川田順６６歳が失踪し、自殺か、と世を騒がした。幸い寺に隠遁しているところを発見されたが、原因は、恋愛問題に悩んでのことだった。相手は、短歌の弟子で、問題は彼女には夫も子もいたからで、この“京大教授夫人”と川田の恋愛事件は、「老いらくの恋」として当時の世相を騒がせた。元々はこの言葉、川田自身が失踪中に友人に送った手紙の中にあった短歌の中に出てくる。
　結局、彼女は離婚し、翌２９年、二人は再婚し、以降川田の死まで二人は連れ添い、その夫人が先日、この平成の世に９６歳の天寿を全うされたというわけだ。
　さて、では、どうしてこの事件、戦後世相史に残るほどの“大事件”なのか。調べてみると二人が再婚したとき、川田は、６７歳、夫人は４０歳である。３０歳近く歳が離れているとはいえ、今日の感覚でいけば別に驚くに当たらないはずだ。今では親子ほど歳が離れている夫婦はざらにいるし、それは話題にはなろうがスキャンダラスに世間の耳目を集める大事件にはならない。問題は、彼女に夫がいて、“人妻”だったことである。
　今日の我々には想像もつかないことだが、戦前の旧憲法では、姦通罪というのがあって、夫のいる女子と関係を持つことは犯罪だった。このところやたら届くスパムメールのうたい文句は、嘘か誠か知らないが、「リッチなマダムにご奉仕」すると、高額謝礼が貰えるそうであるが、戦前だったらそれは立派な犯罪で相手の夫に告発されたら即逮捕される行為なのだ。
　じじつ、白樺派の重鎮、人道主義者としても知られた有島武郎は、大正１２年、有夫の美人記者との恋愛に悩み苦しんだ挙げ句、二人で軽井沢にて情死事件を起こしている。川田順の頭には当然この事件や姦通罪のことがあったに違いない。「姦通罪」がなくなったのは確か１９４７年だったと記憶するから、まだまだ当時の人々には人妻との恋愛交際は、それが発覚した場合、極めて衝撃的で、しかも川田のような高名な歌人にとっては致命的大事件だったのである。
　今日の目で見ると、些細な、どうしてそれが世相を揺るがしたのか首を捻るような事件でも、背景を探っていくと、また別な“真相”が見えてくる。大事なことは何でも今の感覚ですぐに切り捨てては、本当のことはわからないということだ。しかし、現在のように、性に関し誰もが？浮気し、家庭ある身の二人がそれぞれ気軽にＨしている？時代、「姦通罪」という法律がつい半世紀前まであったことも昔話にもならないかもしれない。今ははたして良い時代なのだろうか。
★辻井喬氏の『虹の岬』はこの事件をモデルにして書かれたものだそうだ。
　

２月終わりの近況
　風邪っぽいので、きちんとしたこと今日は書けないのですんまへん。
　このところ何故だか“商売”に追われ、毎日あたふた忙しくしていたが、今日は本の発送も久々に途切れ、一日強い雨が降り続いていたこともあって、出かけずに机の周りを片づけたり本を整理したり床を掃除したりと久々に家にいて心静かに落ちついて過ごすことが出来た。でも気がゆるみ疲れが出たのか風邪ひいた感じがする。
　さて、その商売の報告だが、開業以来閑古鳥が啼き、ネズミが走り回っていたウチ、ますだあーと書店なのだが、このところどうしたことかアマゾンでも自店舗でも注文が続いて、その発送にやたら追われていた。それだって、一日に何十冊も売れているわけではない。せいぜい最高で６冊程度だ。その程度で、注文を受けて、在庫確認して、相手方に連絡して、本の状態を確かめて、カバーなど磨いて、ＰＰ袋に入れプチプチで梱包して、一筆添えて発送まですると、何時間も
とられてしまう。増坊はグズだし、何でも素速く速やかに元からできない性格の上に、慌てておざなりに発送作業をやると、送る相手を間違えたり、本に書き込みがあるのを見落としていたりとトラブルの種となるので、どんなときでも慎重にやらなくてはならないからだ。そんなで、本が売れて嬉しくないはずはないが、あまりそれが続くと精神的に疲れてうんざりしてくる。実際一日がその作業だけですぐに終わってしまうのだ。
　ウチでは基本的に注文メールが届いたら午前中確認したら当日発送、それ以後なら遅くとも翌日のうちに発送することをモットーとし公言しているから、相手方にメールでお知らせした日に届くように発送しなくてはならない。これがまたプレッシャーとなっている。
　例えば今日中に発送するとメールで連絡したものの、何だかんだ忙しくて、日中は無理でどんどん夜も更けてしまうとする。近くのヤマト運輸の集荷センターは夕方７時頃までに持っていかないと、翌日の便での扱いになってしまうので、その時間に間に合わないとなると、仕方なく自転車で１５分ぐらい走って、多摩川縁にあるヤマト運輸の巨大な集荷基地まで直接持っていく。そこならば、２４時間受け付けてくれるし、夜１２時までに行けばその日の日付で出荷票を書いてくれて、しかも夜行の便に間に合うのだ。つまり近くのセンターで発送するのと同じかそれより早いのだ。
　それを知ってから、このところ夜も１０時、１１時頃となってからこの寒いのに、川っぺりのそのヤマトの集荷基地まで送る本を荷カゴに載せてほぼ毎晩そこまでうんうん白い息を吐きながら持って行っていた。往復すると一時間近くかかる。その上、その時刻は毎晩このブログも書かなくてはならないわけで、ブログをちょっと頭だけ書いては本を出しに行き、戻ってまた続きを書いたりと夜になってもなかなか気が休まらない。
　金になることだし、これが“商売”なのだから文句は言えないが、もう少し楽な効率のいい方法はないものか、疲れと風邪気味のせいか今日は内省的になった。すべて愚図な自分がいけないのだがまったく因果なことである。

「文学の時代」を知る人たちが去っていく
　今月も間もなく終わりだけれども、このところ戦後の「文学」に関係した人たちの死去が続いている。今回は趣を変えてそのことについて書く。
　さてその前に、文学についてである。今も昔も“文学”は、ある。しかし三島由紀夫や川端康成などから想起される「文学」と、当今の作家、誰でもいいのだが、例えば、東野圭吾氏や石田衣良氏の名からイメージできる現代の「文学」は当然違う。質の優劣のことではない。今日の作家達もそれぞれ才能があり、文学史に残るかはさておき作家として真面目な姿勢で良い作品を次々発表していると思うものの、昔の文学のイメージと比べるとどうにも軽く、深みに欠けているように感じられる。それは例として挙げた二人が文豪だとか大家であるからとか、純文学と、昔で言う“中間小説”、今なら“エンターティメント”との差でもない。何かが違う。うまく説明できないが、作家とか小説家というよりも文士という言葉から漂う「凄み」と「妖気」のようなものが昔の物書きには誰にも必ずあって、そうした人たちが文壇なる特殊な世界を形成して、即ちそれが「文学」そのものと一体になっていたからではないだろうか。
　今の作家達には過去の文士達が持っていた「臭い」がまず感じられない。皆、明るく爽やかで、清潔ではあるが無味無臭な感じがする。きちんとした社会常識があり、まかり間違っても新聞沙汰となるような事件は起こさない…。しかし、文学とはかつてはそんな大人しいものではなかった。芸人が河原乞食であるなら文士は狂人かゴロツキ、社会的落伍者であった。だからこそ、文学は常にセンセーショナルで、社会的影響力も大きかったと思うのだが…。
　毎度のことだが、前置きだけで長くなった。話を戻すと、そんなかつての「文学の時代」を知る者、つまり目撃者であり生き証人と呼べる人たちが相次いで亡くなっている。
●　１９日　茨木のり子　詩人　　病死か、死後発見　７９歳
●　２０日　鈴鹿敏子　歌人　※川田順の妻　老衰のため　９６歳
●　２２日 福島次郎　作家　※三島由紀夫の弟子　膵臓癌　７６歳
　この三人には、増坊は以前より興味と関心があって、語りたい人たちなのだが、著名な詩人、茨木のり子さんは、新聞文化欄などでも大きく取り上げられたし、これから文芸誌などで追悼記事や特集が掲載されるはずだから拙文は不要だと思われる。そこで、川田順がらみで、その“老いらくの恋”と、同性愛者仲間として三島を尊敬しかつ慕っていた福島氏についてふれることにしよう。
　

サヨナラＣＯＬＯＲ～ 中年男の純情にホロリ
　今週の飯田橋ギンレイホールは、監督が逮捕されたりと、何かと話題の問題作『空中庭園』と才人・竹中直人の監督出演作『サヨナラＣＯＬＯＲ 』。どちらも役者に恵まれ、なかなかの佳作だったが、やはり竹中の方が小品ながらも期待に違わぬ出来で、ついホロリとさせられてしまった。
　『庭園』についても少し書きたいことがあるが、まずはこちらについてぜひ書いておきたい。
　男の心には、いくつになろうとも少年の日の憧れの女性、初恋の人が永遠に棲んでいる。それは、テレビや映画で見たアイドルかもしれないが、多くは同級生にいた、クラスの男子全員憧れの美少女だったりする。
　高校を出て二十数年、もしそのずっと憧れていた彼女と再び会ったら男はどうするだろうか。しかも男は病院勤めの医者、彼女は子宮癌の患者としての再会だった。男は医者として全身全霊をかけて初恋の人の命を救うべく奮闘する。しかも彼自身、かつて肝臓ガンを患い未だ病後の身であった。
　この独身中年の医者に竹中が自ら扮し、憧れの同級生に原田知世。先に粗筋を知ったときは、ちょっとこの二人が同い年とは絶対無理があると思えたが、映画のマジックでどうしてどうしてそんな違和感なく見せている。ただ、全体として、他の同級生に忌野清志郎がいたり、知世のダンナである若者に人気のスタイリスト役に段田安則と、全体的にかなり無理があるように思える総じて若作りのキャスティングのせいもあるが、まあ映画はウソの世界だからそれでもいいのだ。
　話自体は極めて陳腐といっていいほど類型的で、男は高校生の頃から憧れの人と再会でき大いに感激するが、女はそんな男のことは昔も今も全然記憶になかった。そして、男はストーカー的に彼女の病室に入り浸り、自分のことを思いだしてもらおうと高校時代の思い出を必死に語る。女はそんな男を最初疎ましく思ったが、ダンナは見舞いにも来ず浮気はするし、しだいに竹中演ずる不器用で冴えない男に励まされいつしか惹かれていく。そして、手術の日が来て、幸い彼女は一命をとりとめることができたが…
　そう、予想通りの手垢が付いたような展開である。しかし、竹中の抑制の利いた演出と、脇の役者達がちょい役でも適材適所それぞれ良くて、舞台となった江ノ島周辺、江ノ電のある街並みと海沿いの風景もしみじみとした味わいがあり、ありきたりのストーリーを飽きさせることなく見せてしまう。
　そして、声を大にして言いたいことだが、初恋の人を演ずる原田知世がともかく素晴らしい。筆者は彼女が角川映画でデビューしたときから知っているが、昔はどうしてこんなヘンな顔の小娘、どこがいいのか正直全然わからなかった。まるで関心なかったのだ。ところが、この人、年取ってからどんどん良くなり綺麗になっていつしかなぜか気になる女になっていた。自然体というのか、ナチュラルな感性というのか、サッパリしていてこんなタイプの人は他にいない。日本の女優の大方は若いときはカワイく美人でも年取ってくるとヘンな凄みとアクが出て脇で存在感を発揮するだけとなってしまうのに、彼女はまったく違う道を歩んでいる。どんどん綺麗に良くなっている。竹中の監督としての手腕によるところが大きいのだろうが、今回の映画でともかく感心し、ますます好きになった。
　繰り返しになるが、男の心には永遠の少年がいて、初恋の人をずっと追い求めている。その人と奇跡的に再会し、彼女が病み苦しんでいるとしたならば男はそのとき何ができるだろうか。その不器用でカッコワルい男の純情を竹中が笑いと涙で巧みに演じている。ウディ・アレンならラストは目出度くハッピーエンドとしただろうが…。小品ながらも知世の涙と笑顔が心にしみ入る佳作である。必見！

書き込み本で大いに懲りた話
《前回の続き》
　Amazonで売った本に、かなりの書き込み、線引きがあったがために、最低の評価を客につけられた話を書いている。
　言い忘れたが、その本、書き込みとかがあるのをうっかり見落としていたのではない。出品の際に、版が違うことも書き込みがあることもあらかじめきちんと断っておいた。だのに、この騒動である。こちらとしては読むのには問題ないと考え、安くしたから大丈夫だろうと思って出品したのに厳しい点数が付いてしまい大いに困惑、苦慮した。
　結局このときは、客への全額返金を条件に、何度も交渉を重ねて、ようやくその「１」という最低評価は取り消してもらった。当時は一度付いた評価は変更不可で、Amazon側も交えて解決までずいぶん時間がかかった。以後は、反省の上に立ってこの苦い教訓を胸に、基本的に書き込みのある本など状態に問題のある本は、アマゾンの場合は特にトラブルの種となりそうだから迂闊に出品しないことと、自サイトにおいてももし出すときはできるだけ詳しく状態を説明し、納得の上で購入を勧める必要性を痛感した。
　あらかじめ書き込みなどがある本だということを説明しておいてもこんなトラブルが起こるのだから、つくづく言葉だけで現物を通さず行う商談は難しいと思い知った。通販は大変なのである。この人（女性）は極端な潔癖性かキレイ好きの方だったのかもしれないが、人によって美醜の感覚は異なるのだから、いたしかたないことなのだ。今では良い勉強をさせてもらったとこの人には感謝の気持ちさえ抱いているが。
　増坊個人としては本は読めさえすれば書き込みがあろうとかまわない。ただしその分当然割安であるべきだと考える。また時には書き込みがあった方が、他人の考えを知る術ともなるのでかえって興味深く思えた本もままあった。
　さてでは、実際に本の種類で書き込みや線引きがありがちな本とはどんな本だろうか。

通販の場合、書き込み本はトラブルの種
　古本屋に限らず素人個人でも本を“売る”場合に一番注意しなくてはならないのは、本の状態、中でも特に本に書き込みや線引きがあるかどうかだろう。自分の持ってた本ならわかるが、他人の読んだ本だとよほどよく確認しないとトラブルの元となる。通販の場合、モノが直接手に取れない分だけ状態については細心の注意が肝要である。
　新しくて綺麗なものに人気があり価値をおくのは、本だけでなく人も含めてこの世の習いだからできるだけ“新品同様”“非常によい”状態なのが一番良い。表紙やカバーなど本自体が美本でも中に書き込みがあり、鉛筆での線引き程度なら消しようもあろうが、ペンでしっかり黒々と、あるいは目も鮮やかなマーカーで何行もなぞられてしまうと、それだけで価値はほとんどなくなり売り物にはならなくなってしまう。
　そして、何よりも問題は、売った本にうっかり見落としがあって、そうした線引きや書き込みがあった場合のことだ。実際の店で、店頭での販売ならば客が自分で手にとって状態を確認して買うわけだから“自己責任”で売り主には問題がない。ところがネットも含めて、通販の場合、一番怖れるのは売る側はうっかり見落としていて後で気づいた客からクレームがつくことだ。さらに、自店舗売りなら、ことは店と客の当事者間で折り合うこともできるが、これがアマゾンをはじめネット上のマーケットの場合、その客から店の「評価」や「成績」がつけられてしまう。
　ウチの店は今のところはアマゾンでこの一年間の評価は、オール５で、１００％の高評価を頂いているが、以前も書いたことかもしれないが、かつてはある本が原因で「１」を付けられたこともある。それは売った本の版がカタログのと違っていたのと、それよりもその本に書き込みや線引きなどが沢山あり、「非情に汚く、売り物に価しない」と極めて手厳しい抗議を受けたからだ。１年以上も前のことだが今思い出しても苦い思いがこみ上げてくる。

本に書き込みをする人
　これから何回かに渡って自分の本に、書き込みや線引きをする「行為」と、そうした跡のある本についてちよっと考えてみたい。
　当たり前のことだが、本には書き込みや線引きなどがある本と、それがない本があって、それは本に何か書く人と、書かない人の比率にほぼ一定しているように思える。つまりこの世には本に何か書く人と書かない人がいて、書く人はたいてい書くし、書かない人はまず書かないということだ。
　以前、新聞で読んだ記事だが、ある高名な学者先生が亡くなって、その人の沢山の貴重な蔵書を遺族が整理、処分しようと思い、いくつかの古本屋に相談した。だが、どこの店も引き取ってくれなかったという。理由は、どの本にもすべてその先生の書き込みがびっしりと記されていて、とても商品として売れるものではなかったからだ。困った遺族は、ゴミとして捨てるしかないかと悩んだが、幸いどこそかの大学の図書館だったかが一括して引き取ってくれたと記事は結ばれていた。この先生のように、自分の所有している本を半ばノートのように書き込んで使う人がいる。
　もちろん、そのことの是非は問わない。自分で金を出して購入した本なのだから、何を書き込もうが線を引こうが、ページを破ろうが切り取ろうが、本自体をバラそうが、つまり煮ようが焼こうがその人の自由なのだ。それもまた本に対する愛情の一種であり、本は読んで所有するものである以前に“使う”ものでもあるから、本棚に入れたきりで死蔵するより、ノートのように書き込んで、“活用”するほうが本にとってはまさに“本望”かもしれない。
　しかし、問題は、――古本屋として、古本を売る側としての問題なのだが――、そうした書き込み、線引き本と出会ったときの扱いなのである。貴重な本でも書き込みなどが多く程度の悪い本を売るにはよほどの勇気が要る。先の学者先生の蔵書を査定した古本屋の心境はいかほどであったか思い余りある。

売れるのはゲーム攻略本ばかり
　この世は願ったとしても当然思い通りになるはずのないものだから、古本屋として、こんな本が売りたい、あんな本はちょっと…といくら考えてもそれがかなうはずがない。ただ、ここのところアマゾンを通しての注文もゲーム攻略本ばかりが１０冊も続いていて、さすがにうんざりしてきている。むろん買ってくれたお客様にとやかく言える筋合いではない。問題はそうした本しか売れないウチの体質にそもそも原因があるのだと思う。しかし、それにしても売れる本とはゲームに関連した本ばかりだというのは、今一番の時の人、藤原正彦氏ではないが“国家の品格”が問われるような気もするがいかがなものか。
　さて、今回紹介する本はその中でも白眉というか、伝説のＲＰＧと名高いそうである『クトゥルフの呼び声』のルールブックである。このタイトルにピンと来た貴方は、かなりの文学通だと自認しても良いだろう。その通り、これは、あのＨ・Ｐ・ラヴクラフトの物語を元に制作された米国産ロールプレイングゲームであり、本書はそれの解説書の翻訳版なのだ。
　増坊は、旧世代、それも進取の気風に欠けているのでゲームなるものは、インベーダーゲームの頃より流れに乗り遅れて一切しないし当然全く理解できない。が、ラヴクラフトのそのホラーワールドがビジュアル化されているものならば一度でいいからちょっと覗いてみたいような気がする。★クトゥルフの呼び声ルールブック　サンディ・ピーターセン＆リン・ウィルス著　中山てい子訳　１９９３年　ホビージャパン刊　定価３８００円　当店の販売価格￥２８６０

少しづつだけど波紋が広がっていく
　この拙いブログを始めて今日でちょうど１年となる。古本のことや商売のこと、その他、好きな音楽や映画、そして山歩き等々自分の関心のあることなどを気の向くままとりとめなくほぼ毎日だらだら書いている。きわめて自己満足の世界だから読者などほとんどいないと思うのだけれど、それでも時たま語句の何かが検索に引っかかるのか訪れてくれる人もいて、少しづつだけどコメントも増えてきた。どこかで誰かがきっと読んでくれているようで、感触も感じられるようになった。こんなブログでも続ける意義はあるものだとつくづく思う。
　しかし翻って自分の「商売」を思うと、今年でネット上に開店して４年目となるのに、アマゾンでの販売は別として、自店サイトの方は相変わらずほとんど売れず進展がない。どこかで根本的に何かを変えないことにはいつまでも低迷するだけで顧客も売り上げもいっこうに伸びていかない。今年こそは、と内心期するところもあるのだが、やはりブログにかける情熱の半分でも本業の方にもっと時間と気力を傾けるしかまずは手はないだろう。
　ブログに話を戻すと、このところ過去に書いた記事に対して、何ヶ月も経ってから最近になって読んでくれたのだろうがコメントが届き、嬉しい驚きを感ずることが多い。特にＴＢＳのアナウンサーであり、深夜放送「金曜パック」第二部担当の“ミドリ豚”こと、先年若くして亡くなられた林美雄氏に関しては、ごくごく私的な思い出だと覚悟の上で書いたのに、予想外の反応が届き、自分と同じようにあの頃の深夜ラジオに耳を傾けていた同じ仲間達がいたことを知ることができ、大いに感激した。
　インターネットという情報の巨大な湖に、増坊が投げたブログという一つの小石。その波紋が、ゆっくりと時間をかけてだけれど遠くの人の元へと伝わっていく。今そんなイメージを描いている。
　このブログがこの１年間に費やした容量は本日付けで１２．８２ＭＢ。規定量なのか総量が３０ＭＢと横に表示されているから、このスペースで書いてもまだあと１年は余裕で大丈夫だろう。いっぱいになったらそのとき考えることにして、ともかくこれからもこのブログ、小さな礫をどこまで届くか自信はないが日々投げ続けていくつもりだ。お読み頂いている方に心より感謝いたします。これからもご都合にあわせて時たまでもよろしく覗いて見て下さい。
　最後に、申し訳ないがワカル人にしかわからないことを承知の上で、林美雄に倣って、「ブログにコメントうれしいな、浮かれ気分のマスダ豚、夜空見上げりゃ星二つ。ブッブー」※提供は豚型湯たんぽブーブーちゃんでお馴染みの下落合本舗でした。