思い出配達人としての古本屋の役割
この本は、先日、自店舗の方で売れたもので、購入されたのは、和歌山県在住の女性の方。おそらく現在絶版となっていて、確かアマゾンのカタログにも載っていなかったと思う。この方はネット上をあちこち検索して、偶然当店の在庫リストにあることを発見し、問い合わせてくれたのだ。以下、当人のご了解を得て、この本に関する思い出を載せさせてもらいました。
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「はりきりうさぎさんのドキドキお菓子絵本」は、小学校の時に移動図書で借りた本です。かわいいイラストと素敵なお菓子、夢中になって読んだものです。
あれから、かれこれ20年、結婚し、子供もあの頃の私と同じ歳に成長しました。
最近、昔に自分が読んだ本や聴いた音楽を子供達にも教えてあげたくて、あれこれネットで探しています。
今回、見つけていただけて本当に嬉しいです!
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この方からは、このメールの後にも詳しく子どもの頃の家庭環境について教えて頂いた。
抜粋すると、小学六年生まで、両親が教育上好ましくないとの理由で、自宅にテレビは置かれていなかったが、ちっとも困らなかった。なぜなら、「絵を描いたり、手芸をしたり、本を読んだりと豊かな時間を過ごせていたからです。両親共に本好きで、遊園地は連れて行ってくれなくても、図書館には連れて行ってくれました。本好きに育ててくれた両親に感謝しています」。
そしてお菓子研究家の書いた本を読んでから、お菓子や料理に興味を持つようになったこと、「料理することは家事の中で一番好きです。働いているので、毎日とはいきませんが、時々手作りのお菓子を作って子供達のおやつに出しています」。
「和歌山市内なら古本屋さんはありますが、私が今住んでいる町にはあいにく古本屋さんがありません。しかし、自宅にようやくパソコンを置いてインターネットをする環境が整ったので、ネットで以前自分が読んでいた本を探すことができるようになりました」とあり、最後はこんな有難い励ましの言葉で結ばれている。
「活字離れが進んでいるといわれる中、本のお仕事をすることにいろんな事を考えられてしまうと思いますが、どうぞこれからも想い出の本、読みたい本を探しているお客様のために続けてください。
私もまたお世話になるかもしれません。その時は、どうぞよろしくお願いいたします」と。
このメールを頂いて思わず手を合わせてしまった。素晴らしい立派なお母さんだと思った。この方のご両親も立派だが、こんな母親に育てられたらお子さんはさぞ幸せだろうとつくづく思える。
古本屋とは単なるモノを売る商売ではない。本というものにこもった思い出も一緒に運んでいるのだった。儲かるとか儲からないという次元の前に、人のために、お役に立つならば、それだけでもこの仕事を続けていく価値はあるのではないか。
早く家を完成させて、また自店舗の方、しっかり本を揃えて、このお言葉を励みにしてもう一度頑張ろうと心に誓ったのだ。