増坊のレコードコレクションから ご存知、老いてますますエンヤトットに邁進中フォークの神様・岡林信康さんの初期のレコードである。
繰り返しになるが、この曲を子どもの頃、深夜放送で聴かなかったらたぶん自分は違う人生を歩んでいたと思う。マルクスも知らず、きっと一流企業のビジネスマンになっていたはずだ(なわけないか)。この、部落解放をテーマにした「手紙」と貧困を断罪した「チューリップのアップリケ」の二曲だけでも彼の名は永遠に音楽史に刻まれるはずだ。それほどの天才であった。
ところで、このレコードは先日、家の片付けの最中で他のレコードに紛れて偶然出てきたのだが、どうしてこれを持っているのか、自分でもびっくりした。というのも、矢吹申彦のジャケットも昔から雑誌などでよく見ていたから知ってはいたが、世代が違い、自らでは当時買えなかったはずだ。いったいどこから来たのだろう? それはともかく、「手紙」ギターはイサトさんである。今回知った。
カップリングの「それで自由になったのかい」は、1970年の全日本フォークジャンボリーでの実況録音だ。はっぴいえんどをバックにした伝説的な、実に9分20秒に及ぶ渾身の絶叫である。しかし、シングル盤なのに、どうして9分も入っているかというと、手紙は、45回転なのに、こちらは33と三分の一でのLPモードなのである。秦さんのやることはかくも斬新であった。
その岡林、先日、日比谷野音で、デビュー40周年の大規模なライブを行った。時間とお金があれば行こうかとも考えていたのだが、二部はどうせ毎度のエンヤトット大会になるだろうと、食指が動かず結局失念して気がついたら終わってしまっていた。
自分にとって今も昔も愛憎半ばする岡林だが、このシングル盤を持っているのは誇りに思える。こんな素晴らしい曲が作れる人がどうしてエンヤトットみたいなダンス音楽に夢中になってしまったのだろう。