一晩明けて、安倍首相入院す
ここいらで政局についてはいったん終わりにしたい。
さて、昨日突然の安倍首相の辞意表明の報は、日本国内どころか世界中にも衝撃が走り、増坊のみならず多くの国民の反応は、政権の投げ出しは無責任だ、敵前逃亡だ、理解に苦しむという呆れ果てた批判的なものばかりであった。
そして、一夜明け、政局は早くも次の後継総裁選びへと移り、話題は次期首相は誰になるかということばかりである。そして、当の本人は大学病院で「機能性胃腸障害」と診断され入院してしまった。
思うのだが、何かトラブルや難局に当たると打たれ弱いのは、増坊も含めて今の人々に共通するメンタリティで情けないが事実であり、ちょっと躓いたり、問題が起きるとすぐ仕事をやめたり、プロジェクトを投げ出したり、家に引きこもったりしてしまう。ひどくなると時に突発的な自殺にも及ぶことがままある。その理由はいったいどこにあるのか。
安倍首相という男は元々からが覇気のない、同世代が見ても歳のわりに爺むさいへんな人だったが、先の参院選大敗後、何か気力が萎え憔悴感が漂い、特にAPEC首脳会議でオーストラリアから帰国したときは、誰の眼にもひどく疲れて辛そうに見えていた。マスコミなどでは表立って口にしないが、増坊は彼は欝病ではないかとにらんでいた。
虚ろな焦点の定まらない目といい、意気消沈の様子であり、本人はどう意識していたのかわからないが、どう見ても正常の状態ではなく、もはや限界だったのではないだろうか。昨日突然の政権投げ出しの「真相」は果たして親父の遺産相続疑惑があったからかはともかく、彼の弁護をするわけではないがこれ以上もはや職に耐えられなくなっていたからのように思える。このまま責任感から無理して首相の座にあった場合、さらに追い詰められるのは必然であり、下手したら自殺していたかもしれない。
先の松岡農水大臣を見るまでもなく、このところ壮年、初老層の自殺が増加している。死者に対し今さら詮索しても仕方ないことだが、政治と金の問題でとやかく騒がれたとしても、果たして自らが自殺せねばならない理由はどこにもなかったはずだ。せいぜい議員辞職すれば済む話であり、死ぬ理由がみつからない。それが今の人は、些細なトラブルに見舞われるとすぐに自殺してしまう。思うにそこには当人も周囲も気づかない欝的状態という下地があったのではないだろうか。
そして、その「欝」状態と、年齢も大きく関係しているようだ。このところようやく一般的になってきたことだが、実は男にも更年期があり、初老が何歳からの定義にもよるが、四十代後半から五十代を中心に六十代まで、壮年から初老期にかけ、男も女性と同じように更年期障害に見舞われるのである。
増坊も今その世代の只中にあり、医者にはかからないものの、近年から何となく不全感が強く、体調が常にすぐれず、気持ちも沈みこみ鬱々とすることが多くなった。おそらくそこには体力の衰えとホルモンの変化などがあり、若いときとはすべてかなり違ってきて、その変化に慣れず戸惑い、心身ともに調子を崩す。そしてその変化にイライラする。キレやすくなる。
それが70代、80代ともなると、親父の世代で、ボケが既に始まっているから、そうなるともう何も悩まず気にかけず、くよくよあれこれ考えることもなく、ぱっと視界が開けたように老人力全開となるから安心であり、問題はそこに辿りつくまで、どう更年期、初老期をうまく乗り切るかであろう。
このところ、自殺の報を聞くたびに、昔敬愛した伊丹十三のことをよく思い出す。映画監督として飛ぶ鳥を落とす勢いであった彼が事務所の屋上から突発的に飛び降り自殺をしたのは、ちょうど10年前、1997年の12月であった。交際していた女性とのスキャンダルを週刊誌に報じられ、まさに突然の理由なき死だった。当時は男の更年期という言葉はなかったが、後になり、実は鬱病状態にあったのではないかと初老性欝についてひとしきり話題になった。享年64歳。
怖いのは当人もそれと気がつかぬうちに欝となっていて、体調も悪くすべてが辛くいやになっている。そんなときに、何かの引き金――それは些細な出来事でもいい――当人にとってそのとき目前の頭を痛める問題が起こると、突然ふいに死にたくなって、高いところから飛び降りたり、駅のホームで電車に衝動的に飛び込んだりしてしまうのである。
自殺には様々な要因があり、一概に「欝」と関係づけるのは危険かもしれないが、当人が気がつかないことも多いので、まずは周囲がその悪い状態を察知して、休養を奨め様子に注意するのがまずできる対策だと思える。
ということは、安倍首相の今回の決断は、国家と自民党にとっては最悪でも、当人にとっては最良の処方であったかもしれない。ブッシュに誓った国際公約よりもまずは御身大事なのである。