世界はどれだけ不自由になったか
あの同時多発テロから今日で5年目となる。その以前と以後、世界はどれほど違ってしまったか、この日本だけを見ても大きな感慨を覚える。
最近、あのテロ事件はブッシュ政権が自ら関わり、仕組んだものではないかという「疑惑」を追求する本などが出版され話題となっている。事件の直後にも似たような噂は知識人層には流れていて、米国在住の友人から、事件の直後、向こうからの電話でその話を聞いたことを思い出した。曰く、門主党のゴア候補との間で、僅差の接戦で当選したブッシュは、その支持基盤を強化するために、テロを見逃し利用したか、あるいはテロリストと手を組んで事件を起こした。じじつ、テロ以降は、「テロとの戦い」を宣言し、低迷していた支持率は80%にも上り、その勢いで、アフガニスタンに、イラクへと「報復」戦争を仕掛けたのは記憶に新しいことだ。その「疑惑」が事実かどうかは、ブッシュ以降の新たな政権まで待たねばならないだろう。
9.11以降、テロを未然に押さえるためには、テロリストを匿う国、世界の安定平和に脅威となる国家は、先制攻撃をしても許されるという口実が与えられた。米英は、アフガニスタンのタリバン政権を倒し、イラクのフセイン政権を壊滅させ、イスラエルは中東でヒズボラを壊滅すべく攻撃を続けている。テロは収まるどころか、世界各地に拡散し、治安維持のためには、ロンドンでは容疑者と間違えられた移民が警察に無抵抗のまま射殺される事件も起きている。電話の盗聴も含めてテロとの戦いのためには国家権力は何をしても許される時代となってしまった。世界全体が、新保守主義と言うよりも再び帝国主義、全体主義の時代へと逆戻りしてしまったようだ。
日本でも、ナショナリズムが台頭し、国民の多く、特に若い世代の保守化が進んで、昨年の9.11に行われた衆院選挙では自民党が記録的大勝を収めた。その流れに乗って、憲法「改正」を公約に掲げる安倍氏が早くも次の首相に当確とされている。民主的なこと、革新的思想の持ち主は、今日では非国民、国賊とされ、著名人がヘタにブログなどで近隣国家を弁護するようなことを書けばたちまち「糾弾」されてしまう。靖国問題しかり、皇室しかり、うっかり批判的言質と取られるようなことを述べると何をされるかわからない。これらはすべて9.11の流れにある。
歴史にもしも、というのはナンセンスな話だが、あの2000年の米国大統領選挙で、フロリダの500票が民主党のゴア候補へと流れていたら世界はどうだったろうか、少なくとももう少し今よりは自由に、20世紀の延長線上に21世紀はあったことだろう。