ハウスを記録した本
というわけで、他の記事も目白押しなので、米軍ハウス関連のことはこのへんでとりあえず終わりにしておく。本当は、そこに住んでいる(住んでいた)ミュージシャンや物書き、ハウスについて書かれた文学作品などにもふれようと考えていたのだが、今回はそのあらましの部分しか書けなかった。いずれにせよ、狭山ハイドパークで今年もコンサートがあるだろうし、おいおいハウスがらみで音楽のことなどまた書くだろう。
では、最後に、これでもまだ古本屋の端くれでもあるので、ハウスについての本を一冊紹介しておこう。本の名前は、『トーキング アバウト フッサ 坂野正人写真集』という。
タイトル通り、横田基地に隣接する福生の米軍ハウス内の住人たちを写したLPレコードジャケットサイズのモノクロ写真集で、著者の坂野氏は、現在はイルカなど海洋生物を記録する映像作家として知られている方なのだが、1970年代半ば頃から福生のハウスに自らも住み、そのハウス仲間である友人たちをカメラに収めた。この本、現在は絶版中で、まずなかなか手に入らないが基地周辺の自治体では図書館などに地域資料として収蔵されていることが多いので閲覧は可能と思われる。
ハウスの写真集といってもハウスの外見は一つもなく、ただそこに住む住民たち、ほとんどが若者である――を、一世帯に一枚づつ、その室内、主にリビングにいる彼ら、ある者は一人で、多くはカップル――を正面から、そのインテリアと共にとらえた写真が何十枚も何のコメントもキャプションもなく収められている。増坊などの地元の者にとっては今も良く知る人の若き日の肖像もちらほら見受けられるのだが、そんな知識は一切不要でもこの写真の数々、圧倒的に面白く飽きることはない。
今回のブログがらみで言うならば、そこに写されたハウスに住む若者たちのユニークな個性がその一枚ごとの写真からビビットに伝わってくるからだ。アトリエ風の部屋、画家、ミュージシャン、アーチスト…、多くが髪を伸ばしヒゲもたくわえ、彼らの好きな音楽や本、ポスター、趣味でいっぱいの個性溢れる部屋。米軍ハウスという西洋式自由な空間を極私的に各自のセンス全開で暮らしていることがそこから窺えるのだ。当然の如く多くの者が室内で犬を飼い、共に写真に収まっている。70年代のそんなハウスでの生活、自由横溢した雰囲気を記録したとても貴重な写真集なのである。もし、この本、どこかで見かけたら、高くても買って絶対損はないと断言する。ウチにはないので念のため。
★坂野正人写真集 トーキング アバウト フッサ 1980年 写真通信社刊 ¥2800 ※この写真集にも登場するハウスに住む地元ロックバンド「キングコング・パラダイス」の同名のレコードアルバムに倣って名付けられた本写真集は、フッサの米軍ハウスに住む70年代後半の若者たちの姿をリアルに記録した記念碑的作品。