懐かしい店を思い出した
それは、筆者が高校生の頃、1970年代の半ばの頃だから、かれこれ30年も前の話だ。
30年前――というと、今の若い人――二十代の人にとっては生まれてもいない歴史的大昔のことだろう。自分もそう思っていたが実際にその年月を体験してみるとつい昨日のことだとは思わないまでもとてもそんな大昔の気はまるでしない。気がついたらいつの間にか30年経っていたというのが本当のところだ。
さておき。その頃、吉祥寺に「ぐゎらん堂」というフォーク喫茶があった。東急デパートの裏側に位置し、小さなひょろ長いビルの細い階段を上った3階にあった。喫茶店であったけれど、定期的に日本のフォークミュージシャンのライブもそこで行われ、前述の高田渡やシバ、友部正人らを唾がかかるほど間近で観た。そこではお酒も飲めて、漫画家の鈴木翁二に連れられて吉祥寺を飲み歩いた記憶もある。いや、飲み歩いてぐゎらん堂に辿り着いたのか。そこで数々のフォークシンガーを知り、いろんなレコードを聴いた。ミュージシャン達に慕われたマスターと気さくな従業員の若者たち、それになんと言ってもとても居心地の良い店だった。
しかしその店は今はない。80年代の中ば頃?マスターの村瀬春樹さんは、店を閉め物書きに転身した。そして常連でかつてこの店をアジトにしていた「武蔵野たんほぽ団」の顔だった高田渡も昨年の今頃死んでしまった。でも先日、その渡氏を偲ぶライブが企画され国立市の「かけこみ亭」で、シバの渋いギターと無頼な歌声を聴いたときに、ふと突然30年も昔、ぐゎらん堂でのことを思い出した。かけこみ亭はぐゎらん堂に比べて少し広くかなり新しいけれど、何よりも雰囲気が似ていた。ミュージシャンに愛される気のいいマスターがいることも、気さくなスタッフも同じだと思った。良い店を知った。辛く大変なことが多いがこれだから人生はまだやめられない。あの頃の雰囲気を味わうためにこれからは定期的に足を運ぶつもりだ。もし、見かけたら声をかけてくれ、一杯おごるから。昔自分がしてもらった彼らのように。