眠れない夜に開く本は
夜寝る前に ブログを一回分書き終えると、その日のノルマは一応終わって、気持ちは休まるのだが、今度は頭が冴えてなかなか寝つかれない。体は休みたいはずなのに、脳はまだしばらく次々あれこれとりとめのないことを考え続けている。なかなかすぐには眠ってくれない。確かに、筋肉トレーニングでも、ジョギングや自転車こぎなどの場合、終わらせるときも急に走るのをやめてはいけなくて、クールダウンと言ったと思うのだが、しばらくの間、ゆっくりとしだいにペースを落としていって徐々に終わりにする。よくわからないがそうしないと危険らしい。脳もどうやら同じらしく、急に電源を切ることはできないようだ。パソコンのように強制終了すると、まさかデータは失われないと思うが、何とかしないと明日もあるので辛くなる。
そこで登場するのがまたもや酒である。脳はスペックそのものは古く低いくせに活発にカラカラまだ回っている。でも寝たいし寝なくてはならない。だから最近は対策として、ベッドの枕元にウイスキーの小瓶を置いといて灯りを薄暗くし、瓶から直接一口、二口と生のままウイスキーを口に含んでちびちびと舐めるように味わいながら眠りに就くようになった。これだとたいてい3口目くらいで脳の電源は切れ、いつしか何も考えないで落ちるように眠ってしまう。熟睡するせいか翌朝の目覚めも快適だ。
それでもどうしても何故だかコーフンして眠れないときは、ウイスキーを片手に本を読む。難しくて難解なのは眠くなる前に飽きてしまうので、肩の凝らないエッセイのようなのが良い。特に短めの、切りのいい小話がたくさん入っている本が。今回は、酒の話でもあるので、酒といえばこの人にふれないわけにいかないだろう。吉田健一。日本人でありながら英国紳士たる文士だ。父親はあの吉田茂元首相という毛並みの良さを持ち、英文学の博識と軽妙洒脱なエッセイを得意とした希代の大酒飲みである。酒好きといっても小田作之助のようにヒロポンと安酒で早死にすることなく、若山牧水のようにアル中で自滅することもなかった。おいしい食事と楽しい話題、そして良い酒をこよなく愛し、酒にまつわるエッセイを数多く著した。今、彼の遺した文章を読むと、まるで彼と酒を酌み交わしているような気分になる。本当に面白い。欠点は、彼の酒の話に付き合っていると、楽しさのあまり杯が進み、ついつい長くなって酩酊状態のまま眠れぬ夜はさらにふけていくことである。
★『新編 酒に飲まれた頭』吉田健一著 昭和五十年/番町書房刊。※彼の代表的なエッセイ集の一つ。中でも「ロッホ・ネスの怪物」の章では、福原麟太郎、河上徹太郎、池島新平と彼の4人で、スコットランドへ赴き、ネス湖の怪獣を見に行く話が笑わせる。結局この懲りない面々だから、当然ウイスキーに酔いつぶれ、せっかく遭遇した「怪物」のことはすっかり忘れてしまうのだ。