真鶴半島探索記
翌朝、朝食前、旅館から離れて高台にある露天風呂に入り、セミの声を聞きながら朝の犬たちとの散歩でかいた汗を塩湯に浸かり流した。あまりの安閑さに気が遠くなりそうだった。実は増坊は昨晩明け方までほとんど眠れなかった。泊まった宿はホテル仕様の本館ではなく、安普請の別館、民宿風の二階の和室だったのだが、その部屋がコンビニの駐車場に面していて、夜通し暴走族が吹かすエンジン音や、話し声、笑い声などが途切れることなく、うるさくてぐっすり眠れなかった。常にトラブルに巻き込まれることの多いのが増坊の人生だから、今さら宿の婆さん達に文句言っても仕方ないし、第一部屋は満室のようだし、それより眠れないならばと、これからのこと、商売のことや人生について、波の音と国道をひっきりなしに走るクルマの音とコンビニ駐車場からの騒音の中、あれこれじっくり考え、それなりに指針が得られた。
しっかり朝食を食べ、犬たちにも朝食に出たアジの開きの骨を交ぜた餌を与え、国道を北上し、まず熱海市街へ出た。できれば午前中でも駅前を中心に散策とかしたかったのだが、道が狭くどこもクネクネした坂道でクルマを留めるところもなく、同行の犬たちはクルマの中に入れておくと熱中症で死んでしまうかもしれないので、仕方なく秘宝館とかの看板や古い戦前からの建物を横目に、今度こそじっくりディープ熱海の奥深さを味わい尽くそうと心に決めて熱海の街を後にした。増坊の趣味嗜好として、廃墟までいかなくとも古い建物を写真にとって記録したいというのがある。熱海はそうした者にとって古いもの、懐かしモノの宝庫だから、ぜひとも再訪して写真にとって報告したい。
それはともかく、もう一つの目的地は真鶴岬だった。熱海より先、もっと東京寄りに小さな小さな半島が駿河湾に突きだしている。それが真鶴半島だ。東京から行くと小田原の先、伊豆半島の入り口熱海の手前で、いつもは素通りしてしまう。だがここは突端まで行くと大木が鬱蒼とした自然遊歩道などもある岬全体が自然の宝庫で、ダイビングスポットとしても知られているそうだ。それだけ水も綺麗で自然が多く残されている。以前からこの小さな半島の鄙びた風景が好きで、海水浴にも立ち寄ったことはあったのだが今回初めて、突端の三ツ石と呼ばれる岩があるところまで海岸を降りて半島を周遊することができた。この岬は人も少なく、岩場の海だが自然がいっぱいでのんびりぼんやりするのに最適だった。犬たちも泳ぎ堪能したと思うが、問題はシャワーなどがなく、後日犬もクルマも砂だらけで閉口した。そして小田原厚木道路から厚木でまた少し渋滞したものの、真鶴を4時頃出て家に着いたのは7時半過ぎ。行きも帰りも時間はさほど変わらなかった。走行距離は往復350キロ。かなり疲れヘロヘロだったが、久々の非日常、いい気分転換となりました。