昭和40年代~50年代
ベストセラーもこの年代になってくると、筆者自らリアルタイムで体験しているので当時の世相と共にその本が思い浮かんでくる。
まず、『頭の体操』の多胡先生やカッパ新書での『法律入門』佐賀潜の名は懐かしい。この他、教育ではカバゴンこと、阿部進という人もかなり人気があった。読んで面白い実用書がベストセラーに顔をしばしば出すのも今日と同じである。 70年安保の前には時代を象徴するように、学生中心に過激なバイブル『都市の論理』が売れたし、老人たちとは一緒に暮らさない核家族化が進んでくると慶弔などもしものときに恥をかかないよう、人に聞けない常識を懇切に説いた『冠婚葬祭入門』がバカ売れする。また、高齢化社会の到来をいち早く先取りした『恍惚の人』など、小説でありながら問題意識をもって広く読まれた。
不思議なことに70年代中ば頃、今の文明はこのままだと滅びる、地球は破滅するという“終末思想”が広がり、それに関連した本が多く出て実際ベストセラーともなった。『ノストラダムスの大予言』などそれの最たるものだろう。著者五島氏は同工異曲の本をその後も次々出し続けたが、結局その“予言”は21世紀の到来とともにはずれたことが明白となったわけで、『日本沈没』や『首都消失』など小松左京の一連の壮大なパニックSFが人気を呼んだのもそうした世相と無関係ではないはずだ。その終末感はつまるところ、公害などが社会問題化し、環境問題が大きくクローズアップされてきたからで、『複合汚染』など、やはり有吉佐和子は常に目の付け所が早いのに感心する。
『天中殺入門・算命占星学入門』などは、今流行の細木某なる占い師のハシリであろうし、ちょっと前には霊能力者の宜保さんという人も頻繁にテレビに出ていたが、マスコミは常にこうした胡散臭い占い師たちに絶好の活躍場所を今も昔も与えている。また、山口百恵の『蒼い時』以降、タレント自ら書く自伝本、告白本は今日常にベストセラーとなることは周知の事実だ。まあ、それにはまずそのタレント自体にすごい人気がなくてはならないわけだが。ダウンタウンの二人がそれぞれ書いた本なども一時期膨大な数売れたが、人気が沈静化した現在見る影もない。そして、『限りなく透明に近いブルー』からセンセーショナルな芥川賞受賞作がベストセラーになるのは、最近の10代の女の子たちが受賞しマスコミを騒がせたのと全く同じ売り方だ。過去を見てきて思うのは、今も昔とほとんど変わらないという嘆息である。