★1998年 晶文社刊 ¥1900
まず第1冊目は、月の輪さんから
先にも書いたが古本屋の主人が自ら書いた本というのも意外にこの世にはかなりの数ある。これから少しづつだけれど、このブログで紹介していきたい。で、まず第1冊目として、東京大田区、蒲田近く蓮沼にある「月の輪書林」の高橋徹さんの本から紹介していきます。
著者は岡山県出身で、店名は故郷の古墳の名前からつけたという。父の転勤で1970年、小学6年の秋に東京にやってきて、都立井草高校から日大芸術学部に進学したものの、2ヵ月で中退。以後映画製作の現場に関わり、87年から3年半古本屋で店員として修行ののち、1990年秋、退職時に手元にあった金100万円で、池上線蓮沼駅近くの夜逃げした中華料理店の店を残骸のまま借りて、自ら改装し直し古本屋を開業した。32歳のときで初日の売り上げは100円だった。本書はそんな彼の今日(1998年)までの古本屋の日常を日記形式で、ときに回想を交え綴ったもの。最初から結論を言ってしまうが、ともかくオモシロイ!古本好き、古本屋好き、そして古本屋を志す人必読の書である。
ブックオフなどでセドリして来てはネットで上乗せして出品し小遣い銭を稼ぐなど誰もが気軽に「古本屋さんごっこ」を楽しめるようになった今日だが、案外“本当の古本屋さん”の日常というのは知られていないのではないだろうか。特に、店売りだけで商いをしている単純な店の主人ではなく、自家製の古書目録を作り、通信販売で自らのお眼鏡に適った本を売っていく、昔ながらの古本屋の実態は、誰かが記さない限り決して表舞台には出てこないから同業者以外知る人もいないはずだ。本書では、自家目録にかけては内容その冊数ともに驚天動地の目録作りで、斯界にその名が轟く著者自らの、その舞台裏や喜怒哀楽日々揺れ動く繊細な内面がいきいきと記されている。
彼曰く「消えた人、消された人、忘れ去られた人。本が人であるなら、古い本からひとりでも魅力ある人物を見つけ出し再評価したい」。これをモットーに自家目録「私家版・安田武」「古川三樹松散歩」「美的放浪者・竹中労」が生み出された。彼の凄いところは一人の人に入れ込むと、その知人、交友関係からその生きた時代背景、関係するすべてのものを探し集めていく。そして、結果としてその数が1万冊をゆうに超え、目録という名の一冊の本ができてしまうのだ。思わず笑ってしまうのは、どうしてもその目録に載せたい、つまり売りたい本が手元にない場合、結果、その題名を載せた上で「未入手」と断っておくこともあるそうで、そうなると、まさしく本末転倒である。まあ、それぐらい目録作りにかける情熱が強い人で、当然市場ではいかに狙った本の山を競り落とすか、その苦心談、失敗談も正直に語られて興味深い。
山口昌男が本書に寄せて、巻頭に推薦文を寄せているが、それを転載させてもらおう。著者を語るにこれぐらい的確な言葉はない。
「世には真剣師ということばはあるが、古本屋の世界にこうした人種を求めるとすれば月の輪・高橋徹をおいて他にはない。」
何度でも言う。古本を愛する人、古本屋を志す人必読の書である。増坊も自家目録作りや、セドリなどではなく実際に市場へ行って自分でも本を競り落としてみたくなってうずうずしてしまった。