懐かしやプーク人形劇場
今の人はどうか知らないが、ある年齢層にとって、劇団プークと聞くと郷愁を覚えるのではないだろうか。今回の会場となったのは、由緒あるその劇団プークの常設小屋で、人形芝居向けに建てられたこじんまりとした古い劇場だったが、二階席も含めると約百名は入るようで、バロンの芸と相俟って、パリの下町の芝居小屋にいるかのような気持ちがした。ぜひその建物だけでも必見だと思うし訪れる価値がある。良い小屋を今回知ることができた。
若き友人、バロンなかざわのソロ公演は、15、16日と二日間、16日のマチネも入れて計3回、新宿南口のプーク人形劇場で行われ盛況のうちに幕を閉じた。素晴らしい公演であった。
ボードビルというものは、音楽にまして文字で表現することなんて難しい。バロンはたった一人で、鉄製湯たんぽを洗濯板のごとく用いる「チャンチキドラム」をかきならし、ウクレレやバンジョーウクレレで弾き語り、唄い、タップを踏み、パントマイムを演じ、踊り観客を沸かせ続けた。いやはや感嘆するしかなかった。そこにはゆるぎない確かな芸があった。知る限り、小さなライブ居酒屋でよく見知ったバロンはそこにはいなかった。彼がセクシーかつとてもカッコいい立派なプロの芸人であったことにショックさえ受けた。
ボードビルを演じるボードビリアンという芸人は今日ではもうほとんどいないのではないか。またその定義さえ考えてみると難しく怪しい。少なくとも東京ボードビルショーなどという劇団は全くボードビリアンとは関係なかったように思うし、じっさいこう書いている自分さえ、ではいったいどんなものがボードビルかと聞かれると答に窮してしまう。
今回バロンのソロでの奮闘公演を観て、これこそがボードビルかと問われるとやはり困ってしまうのが正直なところだが、少なくとも音楽だけのミュージシャンでもないし、単なるしゃべくりの漫談芸とも全く違うし、ジャグラーでもタップダンスだけでもなく、パントマイムだけの芸でもない。その全てをひっくるめて、バロンなかざわの芸であり彼独自の世界であった。それをボードビルと呼ぶならやはりそれはボードビルとしか呼べないわけで、その細かい定義はともかくも、ぜひ機会あればこの今では唯一無比と思える彼の多彩な芸の引き出しを覗き込んでもらいたい。
バロンなかざわという芸人さんと知り合えたことが光栄に思えた晩であった。