継ぎやすい職業を考えてみると
昔、特に戦前は、職業選択の自由なんてなきに等しかったから、男子と生まれた者、特に長男は代々その家の家業を継ぐのが当たり前だった。
百姓の家に生まれた者は百姓に、魚屋は魚屋に、医者の家は医者に、本人の意思とは関係なく嫌がおうにも家業に携わざるえなかった。しかし、今日ではこの世襲的家業継続制度は消滅し、今ではごく一部の職種のみにかろうじて残っている。
親の職業を子がそのまま引き継ぐ割合が高いと思える業種を思いつくまま挙げてみると、天皇家は別格として、歌舞伎役者、芸能人・タレント、医者全般、僧侶、弁護士、一部の学者・研究者、一部の作家や作曲家・画家等の芸術家も浮かんでくる。この他にスポーツ選手なども二世三世がいるのかもしれないが、その割合はよくわからないし、きっと自分の知らない世襲率の高い職業もあるかと思う。官僚とか役人もそうかもしれない。そしてその筆頭は何よりも政治家ではなかろうか。
何故これらの職業が家業として代々子々孫々に続いていくかと考えると、答えはすぐに見えてくる。その仕事が継ぎやすいとか、子にとって魅力的かどうか以前に、それで十分飯が食っていけるか、経済的に職業として成り立つかが前提にあることは間違いない。中でも芸能や芸術、学問に関連したものを除くと、ここに並べた仕事はどれもかなり高報酬の得られる業種であることには異議ないと思う。
翻って身近の、このところ近年廃業した職種、商売を思うと、増坊の住む町で目立つのは、個人経営の書店、酒屋、薬屋、八百屋、金物屋などで、かつて駅前の商店街にあったこうした小売店は青梅線のどの駅をとってもほとんどすべて消えてしまった。代わってコンビニとヨーカドーや大規模ホームセンターやドラッグストアなどが新たに進出してきて、そうした巨大店舗が出来たから個人経営の小さな店は潰れたのか前後はともかく、今の時代は個人で店舗をやっていくことは極めて難しいことだけは確かである。
そうした店には後継者がいないわけではない。少なくとも親の代までは家族を養えるだけの収益が上がっていた。しかし、子の代になると、もはやその家族全員を食わしていくだけ儲けは上がらず、結局子は別な仕事に就くか、別居せざるえなくなっていく。結果、その親の代が老いて体がきつくなり商売が続けられなくなったときその仕事は廃業となってしまう。長年続いてきた町の食堂のような店が閉店するとき聞いてみるとどこもそんな理由を口にしていた。
今の時代だって、親の仕事を継ごうと思う者は決して少なくないはずだし、家業を大事にし誇りに思う子も多いはずだ。しかし、現実問題としてそれで飯が食えなくてはその家業は続けられない。生活していけるだけの利益がない仕事では結婚も子育てもできない。ゆえに家業を継ぐ子等がいる職業とはまず十分に食っていけるだけの利益が上がるものだと見えてくる。その中でもっとも簡便に継げて儲かる職種はと言うと、政治家なのである。