甘い映画「ホテル・ルワンダ」。
さて、ようやくここから本題に入る。実は、その前の週にかかっていた映画こそが問題で、書きたいのはそっちの方だったのだ。名匠ケン・ローチ監督の「麦の穂をゆらす風」と話題作「ホテル・ルワンダ」の二本立て。観終えたあとに気がついた。なぜにこの二本のカップリングかというと、「民族紛争」が共通する題材だったからだ。
ケン・ローチについて書く前に、「ホテル・ルワンダ」について少しふれておく。
1990年代半ばに、アフリカ・ルワンダの地で実際に起こった民族間の抗争が原因で百万人もの人々が虐殺されたという事実を元に、当時渦中にいて、自らの勤めるホテルに、避難民を匿い、1200人の命を救ったという実在のホテルマンの物語だそうで、宣伝などでは、「アフリカのシンドラー」などと謳われていたし、公開に当たっては、当初は日本でその予定がなかったのに、海外での前評判を聞きつけた人たちによって、インターネットで署名活動が起こって評判となり公開が決まったという話題の映画。増坊も大いに期待していたが、感想はというと、決してつまらない悪い映画ではないが前評判ほどではなく、いろんな意味で甘い映画で失望を禁じえなかった。
どこがどう「甘い」かというと、まず主人公を演ずるドン・チードルやニック・ノルティなどやたら有名な俳優が出ているので、娯楽映画としてはともかくも実話としての迫真性に欠けるし、実在のホテル支配人、ポール・ルセサバギナという人物像が映画で見る限り、決して信念に基づいて避難民を救ったのではなく、敵対する部族出身の妻を持つ身ゆえに、自らと家族の安全のために始めたことが結果として美談となったに過ぎず、保身のために口八丁手八丁でうまく立ち回って運よく難を逃れたとの感が強く、残念ながらあまり魅力的ではない。
また、何よりも物足りなく思えるのは、フツ族とツチ族というルワンダ国内で共生していた部族が憎悪をつのらせ敵対し、結果、フツ族民族主義者によるツチ族ジェノサイドに至ったそもそもの根源についてふれていないからで、そこにはベルギーなどかつての支配国の責任が問われるべきだし、武器を売って儲ける大国の戦争商人の存在が大きく関係しているはずだ。そこにメスを入れずにホテル内で混乱し救助を求める難民たちの姿だけを追っても皮相だけに終わってしまい紛争の本質を糾弾し告発するところまで至っていない。結果、シリアスな題材を扱いながら有名スターが多く出ている娯楽映画の域を抜け出ていないのが残念でならない。
同じアフリカを舞台にフィクションながらも大企業の援助という現実とその裏側の欺瞞を鋭く告発した「ナイロビの蜂」の方が格段優れて問題提起をはらんでいると思える。こうした映画に必要なのは美談ではなく「真実」の本質ではないだろうか。