忠君愛国と子どもの読み物
どうやらまた、国を挙げてのきな臭い時代がやってくる。戦後60年続いてきた「戦後」は、間もなく終わり、またぞろ「戦前」の時代がやって来る。教育基本法「改定」で、再び木口小平や爆弾三勇士が、“愛国者”として教科書に復活してくるのではないだろうか。国のために命を捧げた者は尊く美しいと賛美され、手本とされるような。
「愛国心」を子どもの心に植え付けるためには、何よりも感動的な物語が必要だ。そのために、戦前の教科書や児童向け読み物には、忠義忠臣の英雄が数多く登場した。昔の子ども達は幼い頃よりそうした物語で、天皇崇拝と愛国心を涵養され、やがては国を守るため、天皇陛下に命を捧げて戦地に赴いて行った。
さて、映画評論家佐藤忠男の著書に『子どものアイドル/文化出版局刊』という本がある。アイドルといっても主に戦前から戦後にかけて古今東西の、子どもにとって憧れのヒーロー、英雄たちを幅広く多数取り上げた好読み物で、中でも著者自らの子ども時代、昭和一ケタ生まれの子どもにとってはどういう人物がアイドル、ヒーローと成り得たのか、教わるところが大だった。
佐藤自身は、敗戦後、民主的教育を受けて、戦前の軍国主義教育はいかに欺瞞に満ちた愚劣なものであったか目覚めた人だから、本書も当然その視点で貫かれている。しかし、この本に登場する多くの戦前の子どもたちの「アイドル」とは、修身の教科書的忠君愛国の勇者がほとんどであり、楠木正成から、曾我兄弟、乃木大将、前記の木口小平たち他の軍神たち、さらには、山中峯太郎の小説の主人公、本郷義昭まで、ナショナリズム=軍国主義と結びついたアイドルのストーリーに熱中することにより、子どもは知らず知らずのうちに愛国者となり、その行き着く先が先の悲惨な大戦であったことを考えると、教育とイデオロギーが結びつくとどのような結果となるのか見えてきて怖ろしくなる。
人は過去に学ぶことができないのではない。過去を通して今に続く現実を見詰めたくないだけなのかもしれない。安倍首相のような血筋の人こそ、真摯に過去と向き合うべきはずなのに。