素人の時代とは
今日の社会は素人の時代だとは、山本夏彦翁が生前そのコラムの中で繰り返し説いていたことだった。例えば水商売の女を例にとっても昔の芸者は、きちんとした芸があり、プロとしての矜持も皆持っていた。ところが時代が下るにつれ、どんどん素人に近づいて、今日ではプロ以前のアルバイトでしかいないと翁は嘆いていたと記憶する。
この流れはどんな業種においても同様で、芸のある本当のプロや職人がいなくなり、どの世界も素人に毛が生えたようなレベルの者しかいなくなってしまった。それはテレビや雑誌などマスメディアの中に棲息する人々に特に著しいように思える。スポーツの世界は、今も昔も常に実力の世界だから、人気だけではダメなのは、関西の某亀田兄弟を例に挙げるまでもない。
例えば、歌手を例にとっても人気アイドル歌手だとしても60年代、70年代の歌手と比べ今に近づくに連れ、ルックス重視で歌は二の次、三の次ぎとなっていくのは周知のことで、その悪化の頂点が80年代だったのではないだろうか。今日では、純粋なアイドル歌手の時代は終わってしまい、人気タレントが戯れにCDを出すか、実力派Jポップシンガーとに分化してしまったからもはや同じく語れないが。
この何でも「素人化」への流れは、70年代半ば頃からすでに起こっていた。雑誌でいえば素人の女の子がヌードを雑誌で晒すというのは、篠山紀信がビジュアル青年誌ゴローで「激写」として先鞭をつけたことだったし、一部で知られていた過激な写真家、荒木経惟が、アラーキーとして人気者になっていくのも80年代のことだ。素人カメラマンによる「投稿雑誌」が登場するのもこの時代である。
テレビでは、まず80年代前半に、深夜番組「オールナイトフジ」で女子大生ブームが起き、中頃の女子高生による「おニャン子クラブ」へと素人アイドルの低年齢化が進む。アイドルではないが、80年代後半には、「いかすバンド天国」で、素人ロックバンドのブームが起きる。
すべての分野で本物やプロ、職人がいなくなったり敬遠され、素人やパート、アルバイトが重宝され、評価される時代というのは、文化的には退行し、幼稚化しているわけだが、中でも問題は、男性が対象としての女性に関心や愛情を持つ年齢で、ご存知のようにアイドルはより低年齢化し、それに連動するように、幼女を狙った暴行誘拐殺人事件などが今日では多発するようになっている。これは女としても「素人」である幼女の方が好ましいという、素人偏重時代の行きつく先ではないだろうか。