何故にフランスであるか
私的な話で申し訳ないが、おつき合い願いたい。
フランスは、増坊にとって永遠の憧れの国だ。それは、初めて訪れた外国がフランスだったこともあるけれど、慣れ親しんだと同時に彼らのライフスタイルをはじめとして自分はかの国とかの人々から大きく影響を受けた。
うんと昔、まだ二十代の頃、増坊は、お茶の水のアテネフランセへ途切れとぎれだが通っていたことがある。授業の思い出よりも、その学校の講堂で上映していたフランス映画、特にE・ロメールなどあまり日本では上映されないヌーベル・ヴァーグ中心としたラインナップに魅かれて、行き始めたようなものだった。当時の駿河台上は、明治大学も戦前の旧校舎の偉容を残し聳え立っていたし、主婦の友社もYMCAもどこもかしこも大正から昭和初期の建物のままだった。だが、この十年ほどの間にこの界隈はすべて再開発というのか、趣ある由緒ある建物は取り壊され今では高層ビルが林立するオフィス街に変わってしまった。今も変わらずに残っているのは、文化学院と山の上ホテルぐらいのものだろう。あの頃の街並みを思い浮かべると戦前のフランス映画の一コマのようで、まさに隔世の感がある。坂を下った神田の古書街も同じありさまだが、今回はそうした回顧談ではなく、何故に余はフランスへ行くかである。
そのアテネフランスの掲示板で見つけたバイトを通して日本に来ていたフランス人の友人ができた。彼らは実はミリタリ・サービスの一つとして日本に来て仕事していたので、数年後自国へ戻った。そこで、そのツテを頼り、生まれて初めて海外旅行へと出た。その国がフランスだったというわけなのだ。今から20年近くも前になる。