メディアミックス商法
その『セカチュー』も『電車男』も元々は本という媒体から始まったとはいえ、やがてマンガ化、テレビ化、そして映画化と他のメディアへと波及していき、それが相乗効果となりやがて社会現象化していく。現代は個人の嗜好が多様化し、あらゆるものが多種多様にある時代だから、もはや“大衆”など存在せず、むしろ“小衆”の時代だと言われて久しい。それは音楽の分野において特に顕著のように思える。昔のように老若男女誰もが知り口ずさめる大ヒット曲や美空ひばりや坂本九のような国民的歌手などはもはや出てこないだろう。
そうした中、本を中心にベストセラーからやがて社会現象化するほどの大ヒット作が未だ次々と生まれているのは注目に値する。セカチューにせよ、電車男にせよ、これほど大ヒットするとは、その出版社の人たちは当初予想もしなかっただろう。マンガ化、映画化にせよ、まず本が口コミやネットで話題に上り、それに目をつけた他の業界が飛びついてさらに話題が話題を呼び大ヒット作となっていく。出版社サイドがどの程度仕掛けたか定かではないが、この二冊についてはかなり偶発的な要素が大きいと思える。出せば必ずベストセラーとなるハリーポッターシリーズだって、映画と連動はしているものの、販売店側はタイアップして売ろうとするだろうが、出版社サイドとしては本を売ることのみに専念しているようだ。
ともかくも今日のベストセラー、社会現象となるほどの大ヒット作を生み出すためには、テレビや映画、さらに雑誌媒体までも巻き込む必要があるのは当然のことだ。意識的に仕掛けるか、否かは別として、多様なメディアを積極的に利用して本に限らず『商品』を売っていく手法、メディアミックス。現在ではごくごく当たり前の宣伝販売方法だが、筆者が知る限りそれほど昔からあるわけではない。せいぜいこの30年くらいのものだ。そもそも誰が最初にこれを考え始めたかもわかっている。角川書店社長(当時)角川春樹氏である。