実在の政治家を描いた映画の味付けの難しさ
久々に映画の話をしよう。飯田橋ギンレイの会員である増坊は、そこでかかる映画だけでも月に4本は観ていることになるのだが、いろいろあれこれ忙しく、観たとしてもまず音楽のこととかが優先されてしまい映画の話まで手が回らない。先のゲバラほど書かねばならない使命感がわけば書くが、今の気持ちとしては残念なことに優先順位では映画は下位となってしまっている。だからといって、良い映画、価値ある映画が少ないというわけではない。スペースと時間の制約上、あれもこれも手を拡げられないというだけだ。
さて、昨今話題の実在の政治家を描いた映画の二本立てに行ってきた。これは早稲田松竹でも同じ組み合わせだから当然すぎるカップリングであり、近過去の政治家、悪のニクソンと正義のミルク、その絶妙の対比だけでも面白いはずであったが・・・。観終えて正直な気持ち、どちらも期待以下の映画で、決してつまらない愚作でないだけ描き方に不満が残った。やはり実在の人物を映画というフィクションで正面から描くときの難しさを痛感した。それは脚色と演技の味付けの度合いであり、ニクソンは濃すぎて、ミルクはあっさりしすぎているということだ。
まず「フロスト×ニクソン」、どんな話かというと、ギンレイの宣伝文をそのまま引用すると「ウォーターゲート事件の汚名にまみれホワイトハウスを去った、元大統領リチャード・ニクソンとコメディアン出身のTV司会者フロストの、最高視聴者数をはじき出した伝説のインタビュー番組の、表と裏で繰り広げられた、息づまる駆け引きにスポットをあてた実録ドラマ!! 」とあるように、大統領の座を去ったものの罪を問われることなく政界復帰を目論むニクソンと、彼を弾劾し、番組で犯罪者として告発し名を上げたいいフロストの共に後のない二人の思惑を通し、インタビューの舞台裏を克明にドキュメンタリータッチで描いた話題作で、監督は今や油が乗り切っている名人ロン・ハワードだからつまらないはずがない。主役の二人だけでなく脇のキャラも濃くよく描けて、映画としては面白くできている。
が、主役のニクソン役の俳優が似ていないことと(フロストなる司会者本人は知らないが)、巧みで素晴らしい演技だと感心するがあまりに内面にまで入りすぎて、ニクソンに人間味や哀愁まで感じさせてしまうのはいかがなものかと案じる。つまり演じ過ぎているのである。本物のニクソンの持っていた嫌味かつ傲慢な醜悪さがあまり感じられず、敗者となったが哀れな実は良い人という印象を与えてしまうのは映画としての成功以前に、問題であり歴史を偽る結果となろう。
この映画はもともとは舞台劇であり、映画と同じ俳優によって演じられた心理劇だときく。ならば事実に材を得たフィクションとしてそれも成り立つとは思うが、あくまでも実際のインタビュー番組に基づいたドキュメンタリーのように描くならば、これは味が濃すぎて事実とは程遠いように思える。もちろんこれもまたニクソンという男の真実だと開き直ることも可能であろう。しかし、やはりこれは事実をペースにした娯楽映画であり、映画としては面白いが、ニクソン擁護とならないか危惧するところ大だった。
一方の